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2019年に始まった本連載「Innovative Tech」は、世界中の最先端研究論文を独自の視点で厳選し解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」を運営し、日々多くの論文に目を通す山下氏。イラストと漫画は同メディア所属のアーティスト・おね氏が担当する。
科学誌Natureの報道によると、AIツールの職場普及に伴い、専門家が長年培ったスキルが衰える懸念が広がっている。AIへの過度な依存が人間の判断力を損なう可能性が指摘され、注目を集めている。
オランダのヘルスケア事業者が全米で実施した調査では、看護師の70%、医師の77%がAI依存によるスキル低下に不安を抱いている。医療やIT分野では実際にAIがスキル低下を引き起こしたデータもあり、専門能力維持が課題となっている。
ポーランドの内視鏡専門医を対象とした研究は、AIが人間の能力を急速に低下させることを示した。2000回以上の大腸内視鏡検査経験を持つベテラン医師らに、前がん病変(腺腫)をリアルタイムで検出するAIを特定の日だけ使用させた。すると医師はAIサポートに慣れ、AI非使用日のパフォーマンスが著しく悪化した。
AI導入前は28.4%の確率で病変を発見していたが、導入後にAI支援なしで検査した場合、発見率は22.4%に低下。AI依存により自力判断時の集中力や責任感が薄れたことが原因と指摘されている。
同様のスキル喪失はプログラミングでも確認されている。米Anthropicはエンジニア52人にコードを作成させ、半数だけにAIアシスタント使用を許可する実験を実施。作業後の理解度テストで、AI使用グループの平均点は50%と、未使用グループの67%を下回った。
特にエラーの原因特定問題で成績が悪く、AIに作業を任せると表面的な成果は出ても裏側の仕組みを学習できていなかった。この研究論文はarXivに投稿されている。
カーナビゲーションが道順記憶力を低下させたように、便利な技術がスキルを奪う過去事例はある。しかし現在の生成AIは思考や解釈といった人間特有の認知能力まで自動化する点で、これまでと異なる。
AIによるスキル低下を防ぐには、自身がどれだけAIに依存しているかを自覚し、AIの限界を正しく理解することが不可欠だ。AIの答えを無批判に受け入れず、常に自分で考え、警戒心を持って技術とバランスよく付き合う姿勢が求められている。
米大学が2025年に実施する実証実験「AIを使う学生vs.使わない学生、エッセイが創造的なのはどっち?」も、同様の議論に一石を投じるものだ。技術と人間能力の関係は今後も注目される。