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東日本大震災の発生からわずか5日後、国土交通省東北地方整備局長の徳山日出男は、電話越しに戸羽太・陸前高田市長から突き放すような言葉を浴びせられた。被災地では今、国交省の支援など必要ない——そういう趣旨だった。
徳山は粘り強く食い下がった。「国交省の所管でなくてもいい。何か困っていることはありませんか。大臣からも『何でも手伝え』と命じられています」。押し問答の末、戸羽はようやく「本当にやっていただけますか」と切り出した。
その要望は「棺おけの調達」だった。陸前高田市では全約8000世帯の半数が津波被害を受け、犠牲者は1800人以上。遺体は泥まみれで、火葬も土葬もままならず、せめて清らかな棺おけが必要だったのだ。
国交省として棺おけを用意した経験などない。管轄は厚生労働省かもしれない。だが徳山は「すぐやります」と約束した。「被災地に必要なものは、所管を問わず調達する」と固く決意した。
その決意は、災害対策の歴史に残る公文書に刻まれた。電話から6日後、仙台の災害対策室で、部下が作成した市町村長向け文書の案に、徳山は手書きで2行を加筆した。部下は驚いた。そこには「ヤミ屋のオヤジでも何でも、棺おけを調達できる手段はすべて使え」と書かれていた。
この一文は、平常時の法規では想定外の状況下で、人命と尊厳を最優先する「不退転の覚悟」を象徴するものとして、震災対応の教訓として語り継がれている。