
4月23日、国内に衝撃が走った。NECと米Anthropicが戦略的協業を発表したのだ。NECは国産AI「cotomi」を、Anthropicは生成AI「Claude」を開発し、ともにAI時代の主要プレイヤーとして注目を集めている。
その4日後、NECとAnthropic Japanの両社長の姿は、ITイベント「SusHi Tech Tokyo 2026」(東京都ら主催、4月27〜29日開催)にあった。トップ対談で語られたのは、AI開発の裏側と国産AIの戦い方だった。
NECの森田隆之社長兼CEOと、Anthropic Japanの東條英俊社長による対談を抜粋して紹介する。
参考記事:発表の2日前に決まった――NECとAnthropicが“電撃的協業” 3週間のスピード協議の舞台裏
NECの森田社長は「株式市場、顧客など国内外から想像以上に大きな反響があった。それだけAIの影響が本格化する時代に入ったということ。このパートナーシップが世界的に大きな意味を持っていると感じた」と語った。
Anthropic Japanの東條社長は「日本を代表するハイテク企業のNECと協業できて大きな励みになっている。日本企業のAI実装を進めることが、私たち共通のゴールだ」と述べた。
森田社長は「今までのICTテクノロジーは、人間の意志とコントロールの下で補佐的に使われていた。AIは、それ自身が判断をしてアクションできてしまう。ここに『すごさ』と、ある意味で『恐ろしさ』があると思う」と指摘した。
さらに森田社長は「AIを扱うことは『5000年前に人間が野生馬を操るようになった出来事』と似ているのではないか。野生馬を“信頼できる相棒”にしたように、AIにも『ハーネス』(手綱)がいる。われわれの生活を変え得る強力なAIを制御可能にし、人間中心の世の中をつくるためのキーワードが『信頼』だ」と強調した。
東條社長は「Anthropicの創業者8人は、いずれも米OpenAIの出身者だ。創業メンバーは早期から『AIが人類にとって大きな影響力を持つ』と予想していた。危険を伴うが、うまく使えば人類の便益になる。安心して使えるAIでなければ意味がないため、Anthropic設立当初から『安心安全なAI』をミッションに据え、モデル開発時から安全対策に取り組んでいる」と説明した。
森田社長は2022年ごろのエピソードとして「研究者から『このGPU(画像処理半導体)を導入しなければ2〜3週間かかるが、GPUがあれば1日足らずで研究成果が出る』と泣きつかれ、数百億円かけてGPUを約1000基導入した」と語った。
その後「ChatGPT」が登場して話題になっているとき、研究者が「同じようなものを作れますよ」と言い、数カ月後に本当に作り上げたという。
森田社長はLLM(大規模言語モデル)だけでなく「安全なクラウド」「AI前提のデータ管理」「AIに対応できる業務プロセスやガバナンス」などの構築を、社会実装を見据えて先行的に進めてきたと述べた。
森田社長は「テクノロジーと国家安全保障を別々に議論できない時代になった」と指摘し、ポイントとして2つを挙げた。
1つ目に「バイアスのないAI」が重要だとし、「AI学習にどんなデータを使ったのかは、技術機密の中核になるため開示されない。民間や準公共の領域で使うには問題ないかもしれないが、『バイアスがない』と100%保証されないため、国家の核に当たる領域では利用できない」と説明した。
2つ目に、AIはデジタルインフラの基盤になるとし、「米国など同盟国からLLMが提供されているが、永遠に提供されるか保証できない。機微な領域については『プランB』が必要になる。自由な競争と選択が確保されないとき、プランBを発動できるようにする。その観点で、国産AIの意味がある」と述べた。
東條社長は「安全保障の観点で、プランBとしてのソブリンAI(主権あるAI)のニーズはよく分かるし、そうすべきだと思う。一方で、世界展開しているAIモデルは、大量のデータとコンピュータ資源を使って巨大モデルを作り、安価に提供できる。一般的な業務や生活で使う上では理にかなうはずだ」と応じた。
森田社長は「規制が行き過ぎると、技術主権を放棄して、データ主権と運用主権で守るしかなくなる。日本の技術や国際競争力を放棄したことになる危険がある」と警鐘を鳴らした。
その上で「私は、著作権法など通常のルールや規制で守ることが適切であり、AIのために特別な規制を作って過剰に守ることは『技術に対する進歩の放棄』になると考える」と主張した。
森田社長は「AIを巡って米中が最先端を競っている。この2つの選択肢しかなかったら、各国が難しい選択を迫られる。今後、インターネット外でのデータやAIが重要になる中、日本は『第三の選択肢』を提供できる技術ベースがある。そんな提案ができればいい。日本のためにもなるはず」と展望を語った。
東條社長は「日本には良いテクノロジーがあり、そこにAIを掛け合わせることで新しいイノベーションが生まれるはずだ。それを海外に発信すると良いのではないか」と提案した。