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パナソニックホールディングス(HD)が構造改革に一区切りをつけ、反転攻勢に乗り出した。1万2000人に上る人員削減や事業の売却・撤退といった「痛み」を伴う改革を経て、新たな成長の旗印として掲げたのは、創業者の松下幸之助その人だ。グループ全体の成長戦略の根底には、「物と心が共に豊かな理想の社会の実現」という幸之助が掲げた使命が流れている。同社は1932年を幸之助が真の使命を知った「命知元年」と位置づけ、そこから100年目となる2032年を見据えた長期ビジョンを打ち出した。
成長戦略の柱は二つ。一つはAI(人工知能)インフラを支える事業で、重点課題に「エネルギーの有効活用」を据えた。AIの頭脳となる半導体は超高速化に伴い発熱と電力消費が激増しており、同社は半導体周辺に超高密度実装可能な多層基板材料や、高温下でも性能が落ちない導電性高分子コンデンサーを供給。電力損失の抑制につなげる。また、AIの消費電力が大きく変動する問題に対処するため、バックアップ電池ユニットや独自技術を搭載した機器でデータセンター内の電力効率化と負荷変動の吸収を図る。この分野に今後3年間で累計約5000億円の戦略投資を計画。米テスラなど電気自動車(EV)向けの車載電池生産ラインをAIデータセンターの蓄電池用に転用するなど、競争力のある製品で急成長市場を支え、2028年度に売上高約1兆4000億円、調整後営業利益2900億円を見込む。
もう一つの柱は社会オペレーションを支える事業だ。同社は商業施設や工場、航空、流通などの現場で稼働する機器を多く展開してきたが、従来の機器売り中心のビジネスモデルから、サービス価値の提供へと重心を移す。具体的には、ショーケースや冷凍機などを遠隔監視し、故障予知や保守メンテナンスを提供。顧客企業の経営課題に寄り添いながら「止めない・省エネ・省人化」をサービスで支え、現場労働力不足の解消につなげる。ただ、こうしたサービスが収益として安定するには時間がかかるため、同社は「変革には3年間の準備期間が必要」とし、2029年度からの本格成長を目指す。
楠見雄規グループCEOは5月の成長戦略発表会で「命知元年から100年。時代とともに変化する社会課題の解決を通じ、社会と産業の発展を支え、進化を続ける」と力を込めた。松幸之助が1932年に全幹部社員を集めて宣言した「水道哲学」——水を豊富に安く供給することで貧乏を克服する——の精神は、現代のエネルギー問題や労働力不足へとアップデートされている。「物心一如の繁栄」を掲げた創業者の思想について楠見氏は「決して前時代的ではない。理念だけを繰り返しても抽象的になるので、解像度を上げて成長の道筋を示したのが今回の戦略だ」と説明する。
改革の過程で楠見氏は「人員は適正規模だからこそ創意工夫が生まれる。余剰があれば仕事のやり方を変えようとしない」と強調。昨年1万人規模の人員削減を発表した際に「少し足りないくらいがちょうどいい」と語って波紋を呼んだが、改めて「衆知を集めた全員経営」の重要性を説いた。新たな戦略の下で、本業のもうけを示す調整後営業利益を2028年度に7500億円以上(2025年度予想4474億円)に引き上げる目標を掲げる。同社は1984年度に営業利益約5700億円を記録して以来、40年以上も最高益を更新できていない。「経営の神様」の旗印を背負い、社員一人ひとりが戦略の意図を共有し、成長への歩みを確かなものにできるか——真価が問われている。