
東京・東上野の高層マンションに囲まれた一角に、創業から家族3代にわたって受け継がれる銭湯「寿湯」がある。2000年代以降、全国の公衆浴場は急速に減少し、約460軒もの銭湯が姿を消した業界にあって、寿湯は平日でも1日700人もの客を集める異例の存在だ。
元プロボクサーである3代目の店主は「単なるお風呂屋さんではなく、地域の交流拠点であり続けることが大事」と語る。若者や外国人観光客の取り込みに成功した背景には、SNSを活用した情報発信や、伝統的なペンキ絵の継承といったユニークな戦略がある。
「昔ながらの下町の銭湯文化を守るだけでは、人は来ない。新しい価値観を取り入れながら、変わらない部分は徹底的に守る」と3代目。寿湯では、定期的にイベントを開催し、地域住民と観光客が混ざり合う場を提供している。
一方で、周辺地域では銭湯の廃業が相次ぎ、昭和の香りを残す商店街も空洞化が進む。「銭湯がなくなると、その街のコミュニティの核が一つ消える。お風呂に入る場所が減るだけでなく、人と人がつながる場が失われるのが一番怖い」と3代目は警鐘を鳴らす。
寿湯の挑戦は、単なる老舗の生き残り策ではない。「銭湯がなくなった街」の未来を見据え、文化と地域の絆を次世代につなぐための実験でもある。3代目は「うちが生き残ることで、銭湯文化そのものが続く証明にしたい」と力を込める。