
深刻な人手不足が続き「売り手市場」が鮮明となるなか、今春の新入社員が手にする初任給に大きな注目が集まっている。京都や滋賀を中心に店舗を展開する京都中央信用金庫は、5年連続となる初任給の引き上げを断行し、短大卒では前年度比約1.4倍となる26万2千円にまで増額した。同行は今回の決定について「魅力的な賃金水準で採用市場での競争力を高め、優秀な『人財』を確保したい。働きがいも感じてもらいたい」と、その狙いを説明する。
地域金融機関の雄である京都銀行も2年ぶりに初任給を引き上げ、大卒で28万5千円に設定するなど攻勢を強めている。安井幹也頭取は「30万円を超えるメガバンクに比べるとまだまだだが、地域密着で働きたいと選んでくれる学生も増えてきた。中間管理職も含め全体の賃金水準の底上げを図りたい」と語り、若手だけでなく全世代の待遇改善を見据える。また、製薬大手の日本新薬も3年連続の引き上げを実施し、「優秀な若手の採用は会社の成長に不可欠」として博士卒で33万4千円という高水準を提示した。
人材確保の動きは賃金の底上げにとどまらず、働きやすさを追求する「自分らしさ」の尊重にも広がっている。スーパー大手の平和堂は3年連続の初任給アップに加え、髪形やヘアカラー、ピアスなどの身だしなみを自由化する大胆な方針転換を行った。さらに、女性限定だった制服のスカートやカーディガンを廃止するなど、ジェンダー平等や多様性に配慮した環境整備を加速させている。こうした取り組みは、若者の価値観に寄り添うことで長期的な定着を図る戦略の一環と言える。
若手の定着を目的とした独自のインセンティブとして、株式を贈呈するユニークな試みも始まっている。滋賀県の近江鉄道は昨年度から、5年間勤務した新入社員に親会社の西武ホールディングス株50株を贈る制度を導入した。同社の広報担当者は「業績を上げて株価が上がれば、もらえる金額も増える。働きがいにもつながる」と期待を寄せており、今春の初任給も16.6%という大幅な引き上げを行った。昇降機大手のフジテックも、物価高や好調な業績を背景に6年連続の初任給アップを継続している。
帝国データバンク大阪支社の調査によれば、近畿の企業の7割以上が初任給の引き上げを予定しており、採用競争は激化の一途をたどっている。しかし、原材料費の高騰に苦しむ中小企業からは「初任給引き上げに充てる原資の確保が難しい」といった悲鳴も上がっているのが現状だ。既存社員の給与を新入社員が上回る「逆転現象」への懸念から引き上げを躊躇する企業もあり、体力のある大手と中小企業の間の格差が新たな課題として浮上している。