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スズキが「スポーツクロスオーバー」「グランドクロスオーバー」と位置づける新ジャンルのモデルが「GSX-S1000GX」だ。スポーツツアラーの運動性能とアドベンチャーの快適性を併せ持つという触れ込みで、その仕上がりを夏のワインディングロードで確かめた。
GSX-S1000GXは2024年に登場した。クロスオーバーとは複数のカテゴリーの特性を融合させる意味で、ビッグネイキッド「GSX-S1000」を基盤に、「GSX-S1000GT」のスポーツ性と「Vストローム1050」のツーリング要素を足し合わせた多目的モデルだ。
2026年型では排ガス規制適合を中心としたエンジン改良が施され、外観上の大きな変化としてフロントカウル左右にウイングレットが新設された。スズキはこの変更をあまり大々的にアピールしていないが、存在感はかなり強い。
ウイングレットは走行中のダウンフォースを生み、直進安定性の向上とフロント浮き上がりの抑制に貢献する。多用途クロスオーバーに、スーパースポーツのフラッグシップ「GSX-R1000R」の空力性能が加わったイメージだ。
全長2150mm、ホイールベース1470mm、最低地上高155mm、装備重量232kg。これらの数値はGSX-S1000GTとVストローム1050の中間にある。前後サスペンションのトラベル量が長めに確保されていることもあり、見た目はかなり堂々としている。
顔つきは平和主義というより好戦的で、最初は手強そうな印象を受ける。ところがまたがると印象は一変する。830mmのシート高は特に高い部類ではなく、内ももに触れる部分がスリムなため、足の上げ下ろしやすさも足着き性も見た目以上に良好だ。
体にすぐ馴染む感覚は走り出しても続く。スズキ車おなじみのローRPMアシストに加え、電子制御スロットルの自然な開け始め、直4エンジンの滑らかな吹け上がり、軽いクラッチタッチが相まって、バランスを崩しやすい極低速域でもすいすいと操れる。
ただし、終始フレンドリーだとは言い切れない。998ccの直4エンジンは150ps/11000rpmを発生し、中高回転域まで回すとレスポンス、振動、サウンドが呼応するように高まり、ライダーを焚き付ける。高揚感と緊張感はスーパースポーツに近く、アグレッシブな一面も確かに備えている。
緊張感を和らげるには、ライディングモード「SDMS-α」の切り替えが有効だ。A、B、Cの3パターンがプリセットされ、スロットルレスポンスとトラクションコントロール(リフトコントロール、ロールトルクコントロールを含む)、アクティブダンピングコントロール(サスペンション減衰力調整)が連動する。簡単にいえば、Aが最もシャープで、B、Cの順にマイルドな特性へと変化する。
スズキ車共通の美点であるメーターの見やすさも健在だ。モードを切り替えると、トラクションコントロールの介入レベルが数字で、減衰力はH(ハード)、M(ミディアム)、S(ソフト)の文字で表示される。選択肢は適度な数に絞られ、グラフィックも明瞭なため、走行中の操作でストレスを感じない。
SDMS-αとは独立して機能するオートマチックサスペンションモードも分かりやすい。プリロードと減衰力を自動または任意に調整できる仕組みで、一人乗りか二人乗りか、荷物を積載しているかどうかといった状況と好みに応じて最適化される。設定状態もメーターで一目瞭然だ。
各種制御を任せたり、個別にセッティングしながらワインディングを走ると、車体は基本的にスポーティ方向のキャラクターを見せる。悠々と流すような走りより、スロットルとブレーキを積極的に操作し、着座位置を前後左右に動かすライディングスタイルの方がしっくりきて、バイクも生き生きと反応する。
GSX-S1000GTと比べると車体前後のピッチングは大きく出る。だが言い換えれば、加減速や荷重の強弱に対するメリハリが分かりやすく、いつの間にか前傾姿勢でコーナーへ引き込むようなペースになっている自分に気づく。
ハンドリングもその走りにふさわしい。リアよりフロントへの依存度が高く、最新のスーパースポーツから乗り換えても大きな違和感はない。フロントタイヤの接地感にウイングレットがどれほど貢献しているかは明言できないが、その存在とフロント周りの安定性に矛盾は感じない。
街中での扱いやすさ、高速道路での快適性、ワインディングでの楽しさがバランスした1台だ。GSX-S1000GTより楽な姿勢で、Vストローム1050より速く快適に移動でき、GSX-R1000Rより肩ひじ張らずにコーナリングを楽しめる。まさにユニークな存在である。
5つ星評価は、パワーソースが星4つ、ハンドリングが星4つ、扱いやすさが星4つ、快適性が星4つ、オススメ度が星4つ。ツーリングからスポーツ走行まで幅広く使える完成度の高さを示している。
伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト。1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年に二輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後フリーランスとして二輪・四輪媒体を中心に執筆。レーシングライダーとしてマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースなど国内外のレースに参戦し、サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。