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介護が必要になると退去しなければならない「健康型有料老人ホーム」という施設が存在する。高齢者の住まいの選択肢が広がる中、自立したシニアを対象としたこのタイプの施設は、生活を楽しむための設備が特徴だ。全国にわずか19施設しかないという健康型有料老人ホームを、今回は実際に訪ねた。
神奈川県南東部の三浦半島、JR逗子駅から車で約30分の高台に、健康型有料老人ホーム「マゼラン湘南佐島」(横須賀市)は位置している。
健康型有料老人ホームは厚生労働省の令和6年調査で全国に19施設しか確認されていない。その一つである同施設は令和4年12月に本格オープン。眼前には相模湾が広がり、晴天時には富士山を一望できる絶景が広がる。
現在50室に対し、63~96歳の男女35人が入居しており、平均年齢は84歳。入居時の費用は一括払いで1080万円からで、年払いや月額払いも選択可能だ。室料などを含む毎月の必要費用は17万3800円から。入居を前提とした資料請求や見学の問い合わせが多数寄せられているという。
高齢者の増加に伴い、価値観も多様化し、特化したサービスへのニーズが高まっている。この施設は、健康上の問題なく生活できる期間である「健康寿命」の延伸を掲げ、年に1度の健康診断だけでは見落とされがちな日常生活の改善点をサポートしている。
具体的には、入居者全員にアップルウォッチとiPhoneを貸与し、日々の健康管理データを収集・分析している。入居者はそのデータに基づく医師のアドバイスや、身体状況に合わせたパーソナルトレーニングを受けられる。総支配人の稲葉淳さんは「健康寿命の延伸は社会保障制度にも寄与できる」と語る。
入居者の多くに高血圧の改善や体脂肪率の低下といった効果が現れている。中には入居後の運動量が増えすぎて、施設側が適切な運動メニューを提案したケースもあった。取材当日も、卓球を楽しんだりトレーニングルームで体を動かしたりする入居者の姿が見られた。入居する女性(96)は「運動する機会が増え、入居前は上れなかった階段を最後まで上れるようになった」と手応えを語る。
健康増進だけでなく、社会とのつながりも重視している。工場見学などのイベントを企画するほか、外部講師と提携したカルチャースクールも開催している。稲葉さんは「健康でいることは大事だが、社会とつながり、何らかの目的を持つことも重要だ」と強調する。
施設の食堂などは近隣住民も利用できる。閉鎖的になりがちな高齢者施設だが、地域に開かれた施設とすることで活性化を図っている。
介護認定を受けて退去した入居者はまだいないという。退去が必要になった場合、施設の運営会社の子会社と連携し、必要に応じて弁護士や税理士などの外部専門家を交えた相談を行ったり、介護を受けられる別の施設を探して引っ越しまでのサポートを提供する仕組みを整えている。
稲葉さんは「今後は要介護につながりやすい認知症の予防などに有効なプログラムの開発にも取り組みたい」と意欲を示す。
高齢期の住まい選びのポイントについて、第一ライフ資産運用経済研究所の福沢涼子副主任研究員に話を聞いた。
「高齢期の住まいを考える場合、介護ニーズが高まった際に再度引っ越しの可能性を視野に入れるのか、亡くなる直前まで暮らす『終の棲家』としたいのかで選択肢は大きく変わってくる。施設の情報を収集すると同時に、可能な限り実際に見学や体験入居をしておくことも大事だ。いざ入居してみると、サービス内容などが自分のイメージと異なり、別の施設に移るケースもある。
金銭的なことも考えておきたい。自宅を売って施設入居の資金にあてようとしたら、子供が反対し、計画通りにいかなくなるケースもある。施設の入居者からは『平均寿命までの想定で準備したが、想定以上に長生きして資金が足りない』といった話も聞く。健康寿命や平均寿命はあくまで平均値だ。家族と事前に相談して、金銭的に余裕をもった計画を立てることが重要だ。
北欧では自立した高齢者が助け合って暮らす『コ・ハウジング』という暮らし方が普及しており、日本でも10人程度の高齢者が共に暮らす『グループリビング』がいくつかある。さまざまな形を踏まえ、定年を迎えるあたりから情報を収集し、自身に合った選択をしてほしい」(永田岳彦)