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「音痴なら歌うな」――教師にそう言われ、幼い頃から声を出すことに恐怖を抱いていた30歳の女性がいた。彼女を救ったのは、1200年以上の歴史を持つ日本の伝統芸能、詩吟だった。現在60~80代の高齢者を中心に人気を集めるこの芸能は、腹から湧き上がるような声の響きと、失敗を決して笑わない温かい教室の空気が特徴だ。
筆者自身もかつて「音痴」と決めつけられ、歌うことを避けてきた。そんな中、偶然訪れた詩吟の教室で、初めて自分の声に自信を持てる経験をした。指導者は「音程よりも、心を込めて声を出すことが大事」と語り、生徒たちは互いの表現を尊重し合う。
詩吟は漢詩の世界を声で表現する芸能である。一節ごとに情景が浮かび上がるような朗詠は、単なる歌唱とは異なる深い味わいがある。声を震わせ、息を長く続けることで、心身ともに解放される感覚が得られるという。
この教室では年齢も経験も異なる人々が集い、互いに支え合っている。60代から80代のメンバーが、若い参加者の成長を喜び、励ます姿が日常的に見られる。伝統芸能が生み出す人と人とのつながりは、現代社会で失われつつあるコミュニティの役割を果たしている。
筆者は今、詩吟を通じて得た自信と仲間を大切にしながら、毎週教室に通う。1200年続く伝統は、決して古臭いものではなく、むしろ現代の孤独や自己否定に悩む人々への救いの手を差し伸べている。知られざる詩吟の魅力が、ここにある。