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毎年恒例の夏帰省。福岡の実家に集まったのは、55歳の漫画家くらたまと娘、妹家族、そして母親だった。賑やかな食卓には、子どもたちが楽しみにするサワガニの唐揚げが並ぶ。しかし、変わらないはずの風景の中で、くらたまは「いつもと違う感覚」を抱えていた。
台所に立つ母親の背中は、数年前より小さく見えた。唐揚げを揚げる手つきは丁寧になったが、うっかり塩を二度ふりかける場面もあった。昔は何も言わずに全部仕切っていた母が、娘たちの助けを素直に受けるようになったのが、何より時の流れを感じさせた。
夜には庭で花火を楽しんだ。娘も姪も大人になり、線香花火の火が落ちる前に「もう終わりそう」と笑う。母は縁台に座って、その様子を目を細めて見ていた。空に開く大輪の花火ではなく、手元で消えていく小さな火花に、くらたまはなぜか切なさを重ねた。
翌日は海へ。九州の海は冷たく、波の音も子供の頃と変わらない。だが、自分たちの体は確実に年を重ねている。ふと母が波打ち際で立ち止まり、水平線を長く見つめていたのが印象的だった。
くらたまが感じた「切なさ」の正体は、失う不安ではなく、愛する人たちと過ごす時間がかけがえのないものだと気づいた喜びかもしれない。今年の夏の思い出を心に刻みながら、また来年も帰ってこようと思ったという。