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小さな白い袋を口に入れてニコチンを摂取する「オーラルたばこ」が気になっている。上唇と歯茎の間に挟むだけで、いつでもどこでもニコチンを補給できるとして、新商品が次々と発売されている。紙巻きたばこと違って燃焼させないため、煙や臭いが発生しない。他人に迷惑をかけまいとする日本人にとってはかなり魅力的だが、それだけでいいのか。使用者本人の健康への影響はどうなのだろうか。
口腔の専門医にオンライン取材を依頼すると、日本口腔科学会、日本口腔外科学会、日本口腔内科学会、日本口腔腫瘍学会の理事長をはじめ、日本歯周病学会など関連する学会から専門家12人が集まってくれた。
「科学的に懸念していることを知ってほしい」。理事長らは、オーラルたばこが口腔がんや歯周病などのリスクを高めるだろうと語った。実際にオーラルたばこを妊娠初期に使用した場合、生まれてくる子供の唇などに裂け目がある口唇口蓋裂のリスクを増加させたとの研究論文もあるという。
何よりも感じたのは「ニコチン依存症の若者が急激に増えるのではないか」という危機感だ。ニコチンは血管を収縮させて血流を阻害し、発達や生殖にも悪影響を及ぼす。何より強い依存性がある。
たばこ会社は、紙巻きたばこの発がん性物質の多くは燃焼によって発生すると説明する。火を使わず専用デバイスで加熱して蒸気を吸う「加熱式たばこ」やオーラルたばこは、健康への害を低減させた「ハームリダクション」の商品と位置付けている。
だが加熱式たばこもオーラルたばこも歴史が浅く、本当にリスクが低いのかは分かっていない。煙や臭いが比較的少ないとして10年ほど前から普及してきた加熱式たばこは、健康への影響が少なからずありそうだ。厚生労働省は5月、喫煙者が吸い込む主流煙に含まれる一部の発がん性物質の量が、紙巻きたばこより多い場合があるとの調査結果を公表した。周囲の人が吸い込む副流煙からも、ニコチンや発がん性物質が検出されたという。
オーラルたばこにも、思わぬ落とし穴があるかもしれない。「通常の紙巻きたばこと比較して有害性物質の発生を約99%カット」と標榜する商品もあるが、これは、世界保健機関(WHO)が紙巻きたばこからの優先的な低減を推奨する9種類の物質に限定した数字だと、小さな字で書いてある。紙巻きたばこの発がん性物質は約70種類とされ、がん以外の健康被害をもたらす有害性物質もあるが、9種類以外の物質は考慮されていない。もちろん、リスクが99%減ったという意味ではない。
日本で販売されているのは繊維をベースにタバコ葉粉末とタバコ葉由来のニコチン、フレーバーなどを配合したものだが、海外ではタバコ葉を含まないものも多く、「ニコチンパウチ」と総称される。WHOが5月に発表した報告書によると、若年層をターゲットに積極的な販売が行われ、小売販売数は一昨年に230億個を超え、前年比で50%以上増加したという。
国内製品にもニコチン成分が含まれており、取材に応じた専門家からは「実質的に医薬品相当のニコチンを含みながら、安全性検証が未整備のまま急速に普及している」と懸念する声が上がった。今後、各学会は共同し、主要な歯科大学病院とともにオーラルたばこの影響がみられる口内病変の症例を収集したり、若者向けのリスク啓発キャンペーンを行ったりすることを検討するという。
そうした話を聞きながら、これはもはや合法ドラッグとみまがうほどではないかと感じた。「誰にも迷惑をかけていない」と言われるかもしれない。それでも、日本の未来を背負う若者が中毒症状にさいなまれ、がんや歯周病のリスクを背負って生きていくことを憂慮せざるをえない。