
共働き世帯が増加しても「家事は片働き」という傾向が続く日本において、料理は依然として女性の生活時間を圧迫する大きな要因となっています。「時短」や「タイパ」が重視される昨今ですが、家庭での調理時間は思うように減っていないのが実情です。日々の食事作りにやりがいを見出す人がいる一方で、それを義務と感じる人々にとっては深刻な負担となっています。
国の社会生活基本調査(2021年)によれば、料理や食器洗いにかける平均時間は、共働き世帯で妻が1日あたり1時間34分であるのに対し、夫はわずか11分にとどまっています。この数字は、多くの家庭で外食や既製品に頼り切るのではなく、何らかの手間をかけることが当たり前とされている現状を反映していると言えるでしょう。こうした時間的格差は、家庭内における役割分担の偏りを鮮明に浮き彫りにしています。
社会学者で東京大准教授の藤田結子さんは、この現状について次のように分析しています。「家計に余裕があれば調理家電や半調理品を買って『時短』することもできますが、余裕がない人も多い。多くは女性が、仕事や睡眠を制限した『長時間労働』でカバーしています」。藤田さんは、経済的な格差が家庭内労働の負担増に直結している点に警鐘を鳴らしています。
藤田さんが行ったインタビューでは、母親たちの切実な声が寄せられました。「子どもにはなるべく手作りのものを」と願って何品ものおかずを作る人や、「毎朝5時半に起きてみそ汁を一から作っている」と話す人もいたといいます。たとえ経済的な余裕があっても、特に子どもの食事に関しては手をかけなければならないという強い規範が存在し、十分な時間が取れないことに「罪悪感」を打ち明ける人も少なくありません。
「手作り=愛情」という規範は、家庭内の無償労働に過小な価格をつける仕組みかもしれません。料理・片付けの負担が妻に偏る構成ならば、その差は睡眠や賃金労働、あるいは昇進機会を奪う「見えないコスト」になります。仕事場での男女平等が議論される一方で、家庭内における「最後の砦」をどう変えていくかが、今の日本社会に突きつけられた大きな課題です。
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