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2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」では、番外編として過去に発表された個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」を主宰する山下氏が担当し、日課として数多くの論文に目を通している。イラストや漫画は同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
早稲田大学とベトナムの国民経済大学に所属する研究者らが2025年に発表した論文「Does Retirement Improve Cognitive Functioning? Causal Evidence From Vietnam」は、ベトナムのデータを用いて退職と認知機能の因果関係を調査した研究報告である。
本研究では、2019年のベトナム高齢者調査データを基に、50歳から65歳までの男女2123人を分析した。分析では、当時のベトナムの法定退職年齢(男性60歳、女性55歳)を基準にすることで、個人の事情ではなく退職そのものが脳に与える影響を正確に測定した。
その結果、退職によって認知機能が改善することが明らかになった。記憶力や会話力、薬やお金を自己管理する能力などを総合評価すると、退職を機に脳の働きが向上する傾向が見られた。
認知機能の改善効果には、男性か女性か、専門職かどうかによる差は見られなかった。一方、住む地域による違いはあり、都市部では変化が少なかったのに対し、農村部では改善効果が現れた。これは農村部の方がご近所付き合いや地域の絆が強く、退職後も孤立せず周囲との交流が保たれやすいことが影響しているとみられる。
具体的には、休息や運動など自己ケアの時間が約6.7%増加し、地域の集まりへの参加率が約4.9%上昇した。テレビや新聞、ラジオなどのメディア接触機会が約28.5%増え、性交渉を持つ人の割合は過去1カ月で約35%、過去6カ月で約24%増加した。
「仕事を辞めるとボケる」というイメージとは異なり、この調査結果は、退職で生まれた時間を健康管理や地域交流に活用することで、結果的に脳の働きが向上する可能性を示唆している。