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キャデラック初のBEV『リリック』。そのデザインから、『クラウン・クロスオーバー』的なジャンルのモデルという印象を受けた。なだらかにスロープしたルーフと、それに続くリアゲートを持つデザインは、セダンでもSUVでもなく、まさにクロスオーバーのデザインである。
初めて試乗するクルマだから、まぁ結構わからないことだらけなので、一応基本的なコックピットドリルを受けた。これを受けなければ、グローブボックスの開閉も(中にETC車載器がある)、ステアリングに片側だけ付くパドルの意味も、分からなかったかもしれない。それはともかくとして、品川にある広報車の貸し出し場所から、まずはゆっくりと、クルマを街中へと走らせる。
片側2車線の広い通りだから、クルマのサイズ感もとりあえず何の不都合もなく乗ることができる。有り難いのは右ハンドルであること。現行キャデラックで右ハンドル仕様はこのクルマだけ。今も左ハンドルをご所望のユーザーはいるそうだが、利便性を考えれば圧倒的に右。リリックに右ハンドルを設定してくれたことは、大いに価値のあることだ。
車内は恐ろしく静かだ。BEVだから当たり前だとは言え、これが遮音の効いたハイエンド系のクルマだと、なおさら感じる点である。もとより、ICEの時代からキャデラックは静粛性には拘りがあった。古い話で恐縮だが、個人的に90年代に当時のキャデラックを所有していた。まだ、超ソフトな乗り心地が自慢だった時代のキャデラックだったが、この時代から、こと静粛性に関しては群を抜いていた。リンカーンと並んでアメリカの最高級車だったから、BEVとなればその静粛度はさらに増し、いわゆる「らしさ」は強調されているように思う。
少し歴史を紐解くと、92年に4代目の『セビル』が登場した時から、当時のキャデラックの作りが変わり始め、操安性がヨーロッパ志向になった。最近ではすっかり引き締まった足回りとなっているから、昔のようなウルトラソフトは期待できない。
リリックの乗り心地も適度な硬さを持ち、その分路面から伝わるコツコツとした振動は、不可避的に入力される。だから、良い悪いは別にした乗り心地に関するキャデラック「らしさ」は失われている。
ダッシュ右下に、停車時にブレーキをホールドするオートホールドのスイッチがある。すでに何度も書いていることだが、このスイッチは、ドライバーに設定する優先権が欲しいのだが、リリックの場合もデフォルトOFF。だから、ちょっと止めて鍵を閉めて車から離れると、ドライバーが設定したONはキャンセルされて、OFFになってしまう。必要なければドライバーが解除すれば済む話だから、デフォルトOFFはやめてもらいたいものだ。
車両の正式名称は「リリック・スポーツ」と言って、いわゆる電動四駆のモデルである。モーターは前後に配置されて、後者軸を駆動するモーターの方が出力、トルクともにフロントのモーターよりも大きい。つまり動的には少し後輪駆動に近い要素を持っている。スムーズネスは超一流だ。とにかく静止から巡航速度まで、そしてそこから加速して高速へという繋がり感が抜群で、ギアを介して都度都度段のつく、よく言えば節度のある加速感と違って、完全なシームレスである。しかもアクセル操作一つで、それを如何様にもコントロールできる。しかも静粛を保ちながら。
ブレーキも一味違う。効きについては重さ(2650kg)もあって、まあ標準的だが、BEVならではのワンペダルモードが、ノーマルと強という2種でコントロールされる。
それだけではない。ステアリングコラム左側にだけ、パドルが付くのだが、これが実はワンペダルモードに匹敵するハンドブレーキとでもいおうか、走行中にこれを手前に引くとグーっとブレーキがかかる。これはワンペダルモードがオフの時だけ有効になるから、オフにしてこれを使って走らせる楽しみもある。しかも単なるオン/オフスイッチではなく、ストロークはないが、微妙なコントロールが可能だ。電車を止める感覚に似ているから、鉄ちゃんには確実に受ける装備ともいえる。
走行モードはツーリング、スポーツ、スノー/アイス、それにマイモードの4種から選択可能で、マイモードではステアリング、ブレーキ、加速感、モーター音を、ツーリングモードもしくはスポーツモードに設定することができる。唯一加速感は、これに加えてリラックス(R)というモードがあったが、これをチョイスして走ってみても言うほどの効果はなかった。それでも、「加速はいらないよ」という人は、常にこのモードでよいと思う。
その快適さ(多少のコツコツ感は残るものの)、静粛性、スムーズさなど、どれをとっても超一流である。価格は1100万円(試乗車はオプション込みで1195万7800円)と、想定するライバルと比べれば、かなりお買い得だと思う。そうした意味ではお勧め度も満点だ。
3サイズは全長4995×全幅1985×全高1640mm。真ん中の1985mmを見なければ、サイズ的には日本国内でも十分まっとうな数値だが、1985mmはいけない。試乗の間、いわゆるチョイ乗りにも使ってみたのだが、駐車場の白線内に収まらないこと2度。まだまだ、インフラ的にこのサイズを許容しない場所もあって、ちょっとした買い物に使う場合は不便を感じることもある。
まぁ、このクルマしか持てない…というような人は買わないだろうが。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。