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来たる7月29日、オンラインセミナー「政策転換とEVシフト、クイックコマースが拓く日本企業の勝機」が開催される。登壇するのは野村総合研究所(NRI)インド拠点で自動車コンサルティングのパートナー兼BU長を務めるジェーン・ヴィニート氏。現場の最前線で自動車産業を追い続ける第一人者だ。同氏へのインタビューを通じて、急変するインド市場の実像と日本企業が掴むべき機会を探る。
インド自動車産業はコロナ禍で一時的に縮小したが、現在はそのショックを完全に乗り越え、コロナ前の水準を大きく突破する急成長を見せている。中東情勢の緊迫化といった地政学的リスクが世界を揺るがすなかでも、その影響を跳ね返すほど力強い成長トレンドを維持しているのが特徴だ。背景にはモディ政権の「Make in India(インド製造業振興策)」がある。国家を挙げて製造基盤を強化した結果、自動車産業は今や製造業の約5割、国家GDPの約7%を占め、3000万人規模の雇用を生み出す基幹産業へと成長した。
特筆すべきは、インド政府の政策アプローチが「EV一本化」への盲信ではなく、現実的かつ合理的な「マルチフューエル・マルチパワートレイン戦略」を採用している点だ。かつては100%EV化を目指す動きもあったが、サプライチェーンの現地化が進んでいない段階での急速な移行は輸入依存を招くとの懸念から、現在はバランス重視に転換している。この柔軟な姿勢が、多様なパワートレインが共存する市場の発展を支えている。
二輪車市場では、年間2000万台という巨大市場において電動化(EV)の浸透率が直近で10%近くに急上昇。かつては低速の簡易電動バイクが中心だったが、現在は高いモーター性能とバッテリー能力を備えたハイスピードモデルが主流だ。この爆発的な普及を牽引しているのが、インド独自の生活革命「クイックコマース」である。アプリで注文した商品をわずか10分前後で届ける超高速デリバリーエコシステムで、象徴的なスタートアップ「Blinkit(瞬きする間の意)」を筆頭に、生鮮食品や日用品はもちろん、iPhoneやパソコンといった高額電化製品までもが10分足らずで手元に届く。利用者は10~30ルピー(約17~50円)程度の利用料で、自ら運転して買い物に行くリスクや時間を完全に排除できる。この圧倒的な利便性が消費者の行動様式を劇的に変えた、とヴィニート氏は分析する。配送を支えるのは膨大なギグワーカーたちの足となる電動二輪車と、インドが誇るITパワー。電動二輪車は個人の趣味ではなく、商業ユース(ラストマイルデリバリー)として経済合理性とインフラの要請が合致し、日本を遥かに凌ぐスピードで普及している。
四輪乗用車市場でも、昨年度の電動車販売台数が20万台を超え、直近の月間浸透率は5%~6%に達するなど、日本以上の普及スピードを見せ始めている。中東情勢緊迫化による石油価格急騰を受け、インドの消費者は「ガソリン車を避け、電動車を選ぼう」と極めて機敏に行動した。市場構造も激変しており、マルチ・スズキが約4割のシェアで盤石な一方、タタ・モーターズやマヒンドラ&マヒンドラといった地場系メーカーが10%以上のシェアを獲得し、テスラに匹敵するスタイリッシュなデザインのEVで消費者の所有欲を刺激している。
ヴィニート氏は、日本企業に対し、インドで「勝ち切る」ための三つの要諦を提言する。第一に、マルチフューエル戦略への適応——EVだけでなく、ハイブリッドやガソリン車など多様なパワートレインを現地の需要に合わせて展開すること。第二に、クイックコマースを軸とした新たなモビリティ需要への対応——二輪・三輪の電動デリバリー車両の供給網を強化し、ITとの連携を深めること。第三に、日本とインドの連携(日印連携)を活かしたサプライチェーンの再構築——中国に依存しない製造拠点としてインドを位置づけ、アフリカ・中東市場への輸出も視野に入れること。同セミナーでは、これらの具体策についてさらに深く議論される予定だ。