
健康志向の高まりやアルコール離れを背景に、ノンアルコールビール市場は年々拡大を続けている。その中でキリンビールが2023年に発売した「ラガーゼロ」は、同社の想定を大きく上回る売れ行きを示し、業界内外から注目を集めている。本格的なビールの味わいを実現しながらアルコール分を完全に除去した点が、多くの消費者に支持された理由だ。
開発のきっかけは、ビール好きでありながら健康や運転などの理由で飲酒を控える層のニーズに応えたいという、若手社員の声から始まった。キリンでは従来、発酵後にアルコールを除去する方法が一般的だったが、よりビールらしい風味を残すために「発酵前の麦汁からアルコールを生成させない」という逆転の発想に挑戦するチームが結成された。
しかし、アルコール発酵を抑えながらビール特有のコクや苦味を再現するのは容易ではなかった。チームは酵母の選定から温度管理、ホップの配合まで何度も試行錯誤を繰り返し、最終的に同社初となる「脱アルコール製法」を確立。アルコール度数0.00%でありながら、ラガーらしいキレと余韻を両立させた。
味覚面では、消費者テストを何百回も実施し、一般のビールとのブラインド比較で「違いがわからない」と評価されるレベルにまで品質を高めた。パッケージデザインも、缶の色やロゴを従来のキリンラガーに近づけることで、ノンアルコールでありながらビールとしての信頼感を訴求した。
キリンは今後、ラガーゼロの成功を足がかりに、ノンアルコールビールを単なる代替品ではなく「日常の選択肢」として定着させる戦略を進める。若手社員たちの情熱が生んだイノベーションは、酒類業界に新たな潮流を生み出しつつある。