
6月12日、スペースXが株式市場に上場(IPO)する――このニュースは世界中の投資家や宇宙ファンの注目を集めている。同社の企業価値評価は約1,800億ドル(約28兆円)に上るとされ、今回のIPOが宇宙ビジネス史上最大のイベントになるのは間違いない。だが、市場の関心は初値や時価総額だけではない。上場後の成長を支える中核事業と、次世代プロジェクトの成否こそが、真の焦点だ。
現在、スペースXの最大の収益源は衛星インターネットサービス「スターリンク」だ。約6,000機の低軌道衛星で構成されるこのコンステレーションは、既に世界100カ国以上でサービスを提供し、加入者数は300万を突破した。スターリンクは今後、衛星数を最終的に4万2,000機まで拡大する計画で、航空機内や船舶、遠隔地のブロードバンド需要を開拓し、年間売上高300億ドルを目指す。
さらにスペースXは、AI時代のインフラを狙う「AIデータセンター衛星」構想を進めている。大規模言語モデルの学習や推論を宇宙で実行するため、特殊なGPUを搭載した衛星群を打ち上げ、地球とのレーザー通信で高速データ転送を行う。これにより、地上のデータセンター不足やエネルギー問題を解決し、宇宙に分散型AIネットワークを構築するという野心的な計画だ。実現すれば、世界のAI計算能力の10%以上を宇宙で賄う可能性がある。
そして、巨大ロケット「スターシップ」の本格運用も、今後の成長を左右する鍵だ。全長120メートル、完全再使用可能な超重量級ロケットは、1回の打ち上げで100トン以上のペイロードを軌道に投入できる。スターシップはスターリンク衛星の大量投入に不可欠であり、月・火星への有人探査も視野に入れる。2025年には月周回ミッション「dearMoon」が予定され、2026年以降はNASAのアルテミス計画で有人月面着陸にも使われる。
しかし、競争は激化している。アマゾンの「プロジェクト・カイパー」、中国の「千帆星座」計画、欧州の新興ロケットベンチャーなど、宇宙インターネットや打ち上げ市場での競合が次々と登場している。技術的課題(スターシップのエンジン再点火、AI衛星の熱制御など)や規制対応も山積みだ。イーロン・マスクCEOが仕掛ける「宇宙経済圏」の野望は、この3本の柱が同時に実現して初めて成功する――IPO以降、投資家が最も注視すべきは、その実行力とスピードである。